第3回日本社会学理論学会奨励賞(大会報告)の選考委員会が第20回大会終了後(9月7日)に開催され、同大会一般報告部会における、選考対象となる会員による11報告(選考委員会が指定した9月2日までに報告資料が提出されたもの)について、各部会司会者の評価を参考にして審査を行いました。その結果、以下の2報告に奨励賞(大会報告)を贈ることが決定されました。選考委員会による講評とともに、報告いたします。(以下、報告者の五十音順)
新井美子(法政大学大学院)
「ゆるやかな同一性」のもと、つながる
――難病カフェに 集う、異なる病いをもつ人たちの語りからみえるもの――
【講評】本報告は、難病という「ゆるやかな同一性」のもとに病む人が集う「難病カフェおむすび」に、難病当事者がいかにつながり、「おむすび」に参加したことが難病当事者にどのような意味をもたらしたのかを、当事者2名の語りから解明するものである。先行研究を踏まえたうえで問題関心が明瞭に示されている点、「ゆるやかな同一性」という着眼点の独自性、研究内容の社会的意義などが、極めて高く評価された。事例からグラウンデッド・セオリーにつながるような知見の導出にはまだ至っていないものの、今後にその期待を感じさせ、奨励賞にふさわしいものと判断した。
高艸賢(千葉大学)
『現実の社会的構築』と『現実のコミュニケーション的構築』の人間学的基礎を比較する
【講評】本報告は、バーガー&ルックマン『現実の社会的構築』とクノーブラオホ『現実のコミュニケーション的構築』を対比して、後者の理論的新しさを解明することをめざすものである。それぞれの「人間学的基礎」としてゲーレン『人間』とトマセロ『コミュニケーションの起源を探る』を措定し、この四書を詳細に比較するという迂回路をとることによって、本報告はこれまでにない独自の認識に到達しており、報告の明晰さ、質問への的確な応答など、きわめて高く評価された。クノーブラオホの理論的新しさの解明にかんしてはさらなる検討を要する点もあるが、今後の展開可能性は大きく、奨励賞に値する報告と判断する。
日本社会学理論学会奨励賞(大会報告)選考委員会
委員:伊藤美登里(委員長)、奥村隆、数土直紀、村井重樹