日本社会学理論学会 The Society for Sociological Theory in Japan

The Society for Sociological Theory in Japan
日本社会学理論学会

[大会]第2回 大会 一般報告

第2セッション 司会:油井清光(神戸大学)

15:00
エスノグラフィとハイデガー存在論
中村浩子(大阪国際大学)
 本報告は、エスノグラフィにおける権威・政治・暴力性について、ハイデガー存在論を基に考察を行う。
 第一の課題は、いかに書かれる側の権威を奪うことなく書くか、そのためにどう関わるべきか、である。カントの「物自体」が想定されないハイデガー存在論に従いつつ、分析者と対象者はヒエラルヒー的関係では捉えられないこと、そこに生きる人びとが自己を指し向けている「世界」を記述すること、更に、その場面において著者が自己を了解できる状況に至れば、その世界をバイアスなく捉えられているかという不安はむしろ、著者はどれだけ「主旨」を共有し、この場面における存在として我を知るに至ったかという問いに置き換えられることを論じる。
 第二に、解釈に伴う暴力性を軽減すべく、著者自身の「心境」を書く意義を論じる。その際、ハイデガー存在論からは、著者の心境は理性的認識に劣らず世界を伝えるものであり、また「世界=内=存在」である著者が記述する世界とは、参与した今となっては著者を構成するに至った世界であるから、著者が独自に構築する世界ではないことを論じる。
 
 
ゴッフマン理論とエスノメソドロジーの関係性考察
速水奈名子(神戸大学)
 本報告の目的は、E.ゴッフマンの相互行為論とエスノメソドロジーの分析(理論)枠組みの関係性を分析することを通じて、社会学史におけるゴッフマン理論の位置づけを検討することにある。
 ゴッフマンは、晩年の著作『フレーム・アナリシス』(1974)、『トークの分析』(1981)において、現実の組織化、および会話分析にかかわる社会学的理論枠組みを提示している。彼はこれらの考察を通して、60年代を境に台頭してきた現象学的社会学、エスノメソドロジー、会話分析といった社会学理論を批判的に分析している。
 本報告ではまず、主に上述の著作を検討することから、ゴッフマンがガーフィンケル、そしてH.サックスやE.シェグロフといったエスノメソドロジストの分析(理論)枠組にたいしていかなる批判的見解を示していたのかを考察する。次にゴッフマン理論とエスノメソドロジーの関係性について分析した先行研究[D.W. Maynard, 1991; G. W. H. Smith, 2003など]を概観する。そして最後に、それらの考察を踏まえつつ、報告者自らが考える両者の接点および相違点を明らかにし、ゴッフマン理論の社会学史における位置づけを明確にしていく。
 
 
高齢者介護における援助実践の社会学的記述に向けて
秋谷直矩(埼玉大学)
 本報告では、高齢者介護施設(デイケア/デイサービス)における「(直接的)援助実践」の社会学的分析可能性について考察する。高齢者介護施設における援助実践とは、加齢による身体的・認知的機能の低下によって、自立的な生活が困難になってしまった高齢者と、それを援助する専門職あるいは介護者との間でなされるものである。だが、援助実践とは高齢者と専門職あるいは介護者のどちらが欠けても成立しない相互行為的実践であるにもかかわらず、これまでの社会学におけるエイジング理論の展開において、援助実践そのものに照準した議論は十分にされてこなかったように思える。そこで、本報告では、これまでの社会学におけるエイジング理論を振り返ったうえで、援助実践を社会学的に分析するということはいかにして可能になるか、そして社会学的に分析することで、どのような記述がなされるのか、ということの一例を示していきたい。

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